「明日は学校に行くよ」と言ってたのに当日になったら行かない理由とは?④~子どもの行動の奥にある深層心理~
こんにちは。
不登校支援センター横浜支部カウンセラーの本沢裕太です。
2020年も年の瀬となりましたね。今年はコロナ禍の影響で、例年とは違うなと感じる点が多々ございました。それもあってか、一年の体感速度がとても早く感じたのですが、皆様はいかがだったでしょうか?
前回は、子どもにとっての安全基地について「信頼されている人間は安全基地となり、その基地に対する信頼度が増大するほどに健康な自立心が育つ」と紹介させて頂きました。
子どもが安全基地と思うまでの過程に様々な事が起こるのですが、今回はこれまでにあった出来事や聞かせてもらったお話をご紹介したいと思います。
髪の毛を抜いてしまう中2の女の子
その子は、夜寝ようとしても寝付けずに、気付くと抜毛してしまうそうです。
本人も気にしており止めたい気持ちはあるのですが、癖になっているようでした。親御さんは、毎日抜け落ちた髪の毛を掃除するのも心を痛めており、
「お母さんも辛いから、髪の毛抜くのを止めてほしい」
とお願いしましたが、症状は治まりませんでした。ですが、ある時
「髪の毛を抜いてしまうほど思い悩んでいるのね。何があったの?」
と聞くと、学校での出来事で気にかかっていたことを話してくれたようです。それ以来、自室に籠もって過ごす時間が減り、リビングで過ごすことが増えてきて、些細なことでも何かと話してくれる様になりました。親御さんが何より大きな変化だと感じられたのは、笑顔でいることが増えたということでした。子どもにとってのコンフォートゾーンが、「自室」から「リビング」に広がったと考えられます。
そして、髪の毛を抜いてしまう行為は治まったとのことです。今まで自分で抱え込んでいたことを親御さんと共有できたことが、その子のストレスの軽減にもなっていましたし、話せば聞いてもらえるという安心感が「何かあっても大丈夫」という気持ちにさせてくれたとのことです。
親御さんの気持ちの背景をお話させていただきますと
- 学校に行けてない状況は、この先のことを考えると不安
- でも髪の毛を抜いてしまう症状が出ているので、無理には行かせられない
- 「何が嫌なの?」と聞いても具体的なことは話してこない
- 自室に籠もって好きなことをして過ごしているのは、ただの現実逃避なのではないか
というお気持ちが、ぐるぐると巡っていたそうです。
その時は、学校のことを考えなさすぎるのも良くないのではと、
- ちょこちょこ学校の話をしてみたり、
- でもその後落ち込んでいる子どもの様子を見て「さっきは言いすぎた。ごめんね」と謝ったり、
- 先生からもらってきた課題のプリントを渡してみたり(でも見ている様子はない・・・)
- 行事の予定を伝えてみたり(伝えてみるが反応がない・・・)
しておられましたが、その間、親御さんもご自身の対応に手応えを感じられないとおっしゃっておられました。
でも、子どものために何かしてあげたい、今の状況を打破するためにサポートをしたいというお気持ちは強くあり、そのお気持ちがスッキリした形で発揮されないことにフラストレーションを感じておられました。
親御さんとは、「本当は、子どもにどんな風に過ごして欲しいと願っているのか」についてたくさんお話をお聞きしました。
その中で、親御さん自身がピンと来られたのは「楽しそうに笑顔で過ごしてほしい」という思いでした。
その思いに気付いてから子どもの様子を改めて振り返ると、家で過ごしている時に笑っている時間があまりにも少ないという事にお気付きになられてました。
それから親御さんは、「今すぐ学校に行ける様になるよりも、今は家の中で笑って過ごせる時間を増やそう」と工夫され始めるのです。
子どもの見ている動画やテレビ番組を見て一緒に笑ったりと、共有できることを増やすこともされてましたし、一緒に外出する時間を作ったりもされておりましたが、何よりも心がけておられたのは、親御さんご自身が笑顔でいられるように過ごされている事でした。
お互いに別々のことをして過ごす時間を作ったりもしながら過ごすことで、親御さんも、そして子どもも笑顔が増えておられました。
その子は、今スモールステップで登校出来る時間を増やしています。
爪をむしってしまう中3の女の子
この子どもは、カウンセリングの中でも良く喋る子です。
自分の好きなアーティストの話、ゲームの話、興味があることには1人でも出かけるので、出かけた時の話などしてくれました。ですが、学校に関する話はあまりしたがりません。親御さんも本人がどう考えているのか分からないので、どの様に関わったら良いのか悩んでおられました。
そして、親御さんが気になっている事がもう一つございました。学校を休み始めた頃から、その子は自分の爪を無意識でむしってしまう癖が出始めたことです。そのお話を聞いてから私も注意深く見るようにしていましたが、常に短かったので、少し伸びるとすぐにむしってしまうようです。
その症状が治まってきたきっかけは大きく2つありました。
一つは、その子自身が目標を立て、それを毎日実践した事でした。
面倒くさがりな自分の一面を踏まえて、そんな自分でも続けられそうな目標を考えておりました。3ヶ月ほど経って、その成果が現れたことが本人にとって大きな自信となっていました。もう一つは進路選択です。
その子は通信制高校に進学しようと考えていたので、親御さんと一緒に説明会に行ったり、体験授業に参加したりして自分に合った学校を選んでおりました。その間、親御さんと一緒に考え、たくさん話し合ったそうです。
その話し合いの中で、本人がどんなことを考えているのか、どうしたいと思っているのかを共有する事が、それまでと比べても多くなり、親御さんも子どもの要望に対しては出来る限りの支援をされておりました。(もちろん無理なものは無理と伝え、子どももそれに対して納得しておりました。)受験をするのは子ども自身ですが、まさに「共同作業」でした。
そしてその共同作業が、その子どもにとっては「安全基地」の様に感じられたとのことです。
カウンセリングの中でも、
- 勉強についていけないと感じた事、
- クラスの女子の話題に入れないと感じた事、
- 合わせないといけないという気持ちが強くなっていたこと、
そしてその事を誰かに話すのが怖いと感じていたことなどを話してくれるようになりました。その子は、毎回カウンセリングには来てくれておりましたが、最初は直接的な話はしませんでした。(できなかったという方が近いかもしれません)色々な話をする中で、少しずつ「話しても大丈夫そうだ」と感じてくれたようです。その子は今、留学に行ったり、自分のやりたかった事を専攻にしたりと、とても充実した高校生活を送っています。
今回は2件の事例をお伝え致しましたが、いかがでしたでしょうか。
親御さんから見ると、または大人から見ると一見、筋が通ってない点、非合理的な点、計画的ではない点、など見えてしまうかも知れませんが、その行動の奥には、「今の状況に立ち向かい、自分なりに何とか解決しようとしている」という想いが秘められている様に思います。
その行動を指摘すること、やめさせようとすることは、その子どもの想いを否定することにもなります。そして、そう感じさせてしまうのが親御さんの本望ではないというお話もたくさんお聞きします。子どもの想いと、子どものことを想う親御さんのお気持ちが、建設的に交流できるよう一緒に考えていければと思います。
最後までお読み頂きありがとうございました。
関連ワード: コンフォートゾーン , リビング , 中3 , 勉強についていけない , 安全基地 , 話題に入れない , 誰かに話すのが怖い , 進路選択