不登校支援で、支援する側が気を付けたいこと①
こんにちは。不登校支援センター横浜支部カウンセラーの本沢裕太です。
全国で緊急事態宣言が発令されて、外出自粛要請が出されて、学校は休校、お仕事も在宅勤務で対応というご家庭も増えたのではないでしょうか。
かく言う私も、対面でのカウンセリングは中止し、電話やスカイプでのカウンセリングに切り替えて過ごしておりましたが、今回の件で「普段よりも家族が揃って過ごす時間が増えた」という方も少なくないのではないかと思いますが、 皆さん、どの様にお過ごしでしたか?
我が家では、普段あまり家で長い時間を一緒に過ごさない分、この期間は様々な問題が勃発しておりました。
最近、我が家であったできごと
今、我が家には1歳半になる「愛らしいモンスター」がいるのですが(笑)
あらゆるものに好奇心旺盛なので、彼が動いた後は色んなものが取っ散らかっています。
いつものように掃除機をかけていた私に対して奥さんが言ったのは、
「掃除機に溜まったごみは捨ててよね!」
という言葉でした。
その後、ちょっとした言い合いになったのですが(笑)
このような終わった後に不快感が残ってしまう残念な関わり方って、ついついしてしまいがちですが、(私だけでしょうか・・・苦笑)
こういったやり取りを続けてしまうと、相手への気遣いや共感が欠けていき、ゆくゆくは人間関係の破綻へ向かっているかも知れません。
もし、わが家の様な言い合いが増えてきたと感じる方は、関係性が悪化してしまう前に一度思い返してみてください。
最初から
- 相手を否定する様な言い方をしたり
- 相手を言い負かそうとしたり
- 相手からどう思われているのか気にして身構えたり
していた訳ではありませんよね。
元々は、
- 相手を思いやり
- 笑顔でいて欲しかったり
- 楽しく一緒に過ごしたい
- 喜んでくれると嬉しい
と思っていたのではないでしょうか。
では、いつから人は変わってしまうのでしょうか。
それを解き明かすキーワード「正当化」について、今回はお伝えしていきたと思います。
先ほどの掃除機の例のやり取りの際、私がどの様に感じたのかを振り返ってみると
- 掃除機かけてあげているのに文句を言われた
- 感情を煽るような言い方をされた
- 自分の欠点を指摘された
など、まるで自分が責められているかの様に感じました。
そこでどんな反応になったかと言うと、相手の態度や言動に対して「抵抗」です。
- 自分は間違ったことをしていないだろう
- 相手だってこんなことしているではないか!
- そんな言い方をする方が悪い
といった、自分を正当化する思考です。
そんな中、相手とコミュニケーションを取ろうとしているので、まさに臨戦態勢ですよね。(笑)
このように「相手が自分を批判的に見ているのではないか」ということに意識が向いてしまっていると、
- 子どもの世話をしてイライラしていた
- 思い通りにいかないことがあってムシャクシャしていた
- 体調が良くないのに分かってもらえずイライラした
と言った、相手の背景にどんな出来事がありどんな想いがあったのか、という事には気づきにくくなり、相手の行動のみに注目しがちになります。
しかも「抵抗」することが前提なので、例えどんな行動をしていたとしても、その行動の欠点に注目して責めることでしょう。
では、なぜ私は「相手が自分を批判的に見ているのではないか」と感じてしまったのでしょうか。
それは、自分でも「そろそろゴミが溜まってきたから捨てた方が良いかな」と思ったのにも関わらず、
- 面倒くさがって後回しにしたり
- 他の人がやればいいやと思ったり
- 自分は他にもやる事があるから、と現実逃避した
ことをどこかで認識しているのに、「やらない自分」を正当化しようとしたので、奥さんにそれがバレているのではないかと防衛的になったのでしょう。
また、幼少期に自分の親や養育者(保育士さんや学校の先生など)と、どういったやり取りを繰り返されてきたのか、どういう受け取り方を学習したのか、どういう正当化を身につけてしまったのか、という養育環境の影響も大きいと言われています。
ですので、私は幼少期からの経験で、相手から「責められた」時に素直に自分の否を認めるのではなく、相手の粗を探したり、相手を論破することで、自分の正当性を証明しようとしていたのかも知れません。(よほど責められるのが嫌だったのでしょうね・・・)
一つお伝えしておきたいのは、決して誰が悪者なのかと犯人探しをしたい訳ではありません。
人と関わった後に不快感が残るやり取りをしていると思った時や、誰かに対して自分が「正当化」している事に気付けた時に、自分の態度や接し方を含め「在り方」を見直して頂きたいのです。(震災の直後やこういった未曾有の事態の際は、こういったコミュニケーションの問題が顕在化しやすいのです。)
そして、正当化してしまう自分から解放された時、今までの様な「終わった後に不快感が残ってしまう関わり方」ではなく、とても清々しい気持ちで終えられるコミュニケーションが取れる様になっているはずです。
不登校支援のカウンセリングでは・・・
ご家庭の中に「正当化」し合ってしまう雰囲気がはびこっている様に感じます。
この状態が維持されてしまいますと、心から安心して過ごせる雰囲気を家庭内から感じにくくなってしまい、「不登校」という問題も改善されにくくなってしまいますし、その支障が違った形で表れることも考えられます。(非行、自傷、依存、ひきこもりなど)
実際にこれまでどのような事例があったか、ご紹介してまいりたいと思います。
事例1
幼少期に、周りの子や兄弟と比較され続けてきたAさんの中には、「優秀でなければ存在してはいけない」という強い考えを持っていました。
中学生の時に不登校でご相談に来られましたが、お会いした当初Aさんの中での自分を否定する考えが強く、頻繁に手を洗わなくては気が済まない状態になっていました。
親御さんは、Aさんが手を洗う度に「もうやめなさい。汚くないから!」「いい加減にしなさい!」と止めようとされていたそうですが、強く反発されるだけで一向にやめようとしないことに困っておられましたし、Aさん自身も、手が荒れてしまうほど洗っても気が済まないことに困っておられました。
親御さんと一緒に、Aさんが誕生してからのエピソードを一緒に振り返った所、Aさんの出産直後に親御さんの気持ちに余裕が持ててなかったというお話がありました。
その時の親御さんの想いとしては、
- 早くこの状況を打破したい
- Aさんのお世話が負担に感じる
- 自分だけが頑張っている、辛い思いをしている
- そんな自分の状況を分かってもらえてない
と感じることが多かったとの事でした。
その想いが潜在的にあることを、親御さんはとても受け入れ難いことだったとお話しくださいました。
なので、誰にも相談出来ずご自身でも気付かない様に「そんなこと思っちゃいけない!」とガマンされていたそうです。
親御さんも一生懸命、自分の置かれている状況と闘っておられたのですね。
そんな想いを抱えながらなので、パートナーとのコミュニケーションも非建設的になりやすく、言い合いになったり不満に感じることが多かったそうです。
Aさんもそんな親御さんの想いを察知してしまい、
- 自分は周りに迷惑を掛けてしまう存在なんだ
- 周りから受け入れられない存在なんだ
- 何をやっても上手くいかないんだ
と、自分を認識してしまいました。
一度、自分をその様に認識してしまうと、自分がダメな存在であると「正当化」する振舞いを無意識にしてしまうのです。
- わざと周りに迷惑を掛ける様に振舞ってしまったり
- せっかく友人が出来きても、自分から距離をおいてしまったり
- 正当に努力ができなかったり
そしてそのネガティブな経験が、さらにAさんの自己肯定感を下げ、ダメな自分の認識を強化していたのです。
そんなご自身の想いとAさんの状態を振り返られた親御さんは、今のAさんにどう関わっていきたいかを考えていかれます。
その中で、一つのアイデアが浮かびます。
手洗いが過剰になってしまったAさんは、皮膚科に通いハンドクリームを処方されておりました。
そこで、毎日夜寝る前に親御さんがハンドクリームを塗ってあげて、その日にあった話をする時間を設けたのです。
すると、少しずつAさんの様子に変化が現れます。
それまでは保健室登校がやっとで、それも週2~3日だったAさんですが、徐々に登校の頻度が増していきます。
1か月経つか経たないか程で、教室に入り授業を受けることができる様になったのです。
その後、少しずつクラスメイトともコミュニケーションが取れる様になっていき、行きたいと思っていたカフェにも一緒に行けたという話をしてくれてました。
センターに相談に来られた当初の親御さんは、
- 子どもの肯定感を養わなくてはいけない
- 温かく子どもを受け入れなくてはいけない
- 子どもの行動や言動を否定してはいけない
と、お子さんの為に「親としてこうあるべき」という想いをたくさん抱いていらした親御さんでしたが、それは「自分が他の人から良い親だと見られたい」というご自身の想いなのだという事に気付いてから、「無理なく自分に出来ることは何か」と考える様になられておりました。
感情的になってしまったり、否定的に受け取ってしまったとしても、「こんな風に感じてしまった」という事をガマンするのではなく、パートナーやご友人とお話されて解消されておりました。
最後に
人間は、そのコミュニティや環境に適応していくために様々な対処を行っています。
「正当化」もその一つなので、起きて当然なのです。
(「人」はすぐに自分を正当化したくなると思っていてください。)
ただ、その事に気付けずにいると、その家族やコミュニティ、組織全体が悪い雰囲気に包まれてしまいます。
そして自分を正当化しようとしている間は、
- 相手を変えようとすること
- 全力で張り合うこと
- その状況から離れること
- コミュニケーションを取ろうとすること
- 新しいテクニックを使おうとすること
- 自分の行動を変えようとすること
以上のすべてが無駄だと言われています。
「自分を正当化したい」気持ちの上では、どんな出来事も正当化するための言い訳になってしまうからです。
では、自分を正当化してしまう状況から脱却するためには、どうしたら良いのか。
続きはまた次回に。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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(*1) 大和書房「自分の小さな「箱」から脱出する方法」2006年11月
(*2) 金子書房「初学者のための交流分析の基礎」2012年7月