不登校専門カウンセラーが教える「社会接近傾向状態の子どもの対処方法」とは?
皆さん、こんにちは。不登校支援センター福岡支部の永島です。
状況別対処例シリーズ、今回は『社会接近傾向状態』についてお話ししたいと思います。
社会接近傾向とは?
ここで言う『社会』とはその子が生活する空間において、『家庭』以外の世界のことを指します。(学校、習い事、塾、お店、スポーツジム、適応指導教室、フリースクール、・・・etc.)
そして、社会接近傾向とは、その家庭の外の世界に対して興味、関心を持ち行動を起こそうと意識が向く状態です。(行動を開始する状態ではありません)
社会に『意識が向く』というのがポイントになります。
社会接近傾向にある子どもの心理状態とは
行動例としては、次のような症状があります。
- 家から出ることに対して抵抗が弱くなる
- 親と一緒であれば外出ができるようになる
- 暇を訴える発言が増えてくる
- 親(家族)とのコミュニケーションが増える
- 行動パターンが増えてくる
そして心理面の変化としては、社会を拒絶していた子どもが安定し、今の自分の状態を客観的に見ることができるようになってきたときに、
「このままではダメな気がする」「何か変えていかないと」「他人と交流することをしないと」
など、今の現状から変わる必要性を感じるようになってきます。
このようなときは、子どもから少し前向きな発言が見られるようになってきます。
- 「何かしないといけないと思うけど、何をすれば良いのかわからない」
- 「勉強くらいしておいた方が良いのかな?」
- 「コミュニケーション能力を育てた方がいいのかな?」
- 「自分を変えないといけないと思う」
- 「時間を無駄にしないようにしたい」
それまでの子どもを見ている親御さんからすると、こういった前向きな発言はとても嬉しくなってしまいますよね。ついつい、温めておいたアドバイスなどをしたりすることも多いでしょう。
ただ、これが判断が難しいところなのです。
前段でも説明したように、このときの子どもは社会へ意識が向いただけであって、行動開始準備が整ったわけではありません。なので、いきなり「ああしてみら」「こうしてみたら」を提案されると、途端に後ろ向きになってしまうことがあります。
なぜかと言うと・・・
それまでは社会を拒絶していた子どもたちは、外の世界で何かをするということに対する自信が無く、不安ばかりを持ってしまっていることがほとんどだからです。
その不安は私たちが想像もできないような 恐怖 なのかもしれません。
社会接近傾向状態の子どもの対処方法
それでは、この社会接近傾向状態の子どもの対処方法についてお話ししていきます。
どんな状態でもそうですが、やはり子ども自身がどんな経緯で、今どんな状態にあるのかを知る必要があります。
この状態にある子どもの場合、
- 社会(外の世界)に対して自信がもてなくなるような経験を重ねてきた
- 今の自分自身の状態に対して不安が生じ始めている
- 何か変化を起こそうと思うが、それが実行できる自信が無い
という経緯と現状があると考えられます。
そんな子どもへの対応方針として、次のことを意識してもらえたらと思います。
1.焦らせない
2.「しなければ」→(変換)→「やってみたい」
それぞれについて、解説していきます。
1.焦らせない
「何かしないと」「変わらないと」と思い始める子どもたちの多くが、その原動力になっているのは『焦り』の感情です。
しかし、ここから何もできないで足踏みすることが続く場合、この焦りがとても大きくなってきてしまい、結果的に心理的に潰れてしまうこともあります。なので、ご家族の方は、子ども焦りを和らげてあげられる接し方を心がけてみてください。
2.「しなければ」→(変換)→「やってみたい」
焦りが原動力となって行動しようと思っている心理状態の子どもは「変わるためには○○しなければ!」という考え方で行動意欲を持ちます。
しかし、この「しなければならない」は責任感や義務感、あるいは脅迫感などがあり、どちらかというと悪いストレスが大きい思考性です。
同じ行動をとるとしても、「やってみたい」という思考の方が期待感、高揚感、挑戦意欲があり、良いストレスが大きい思考性になります。
カウンセリングでは常に意識されているのですが、如何に悪いストレスが少ない思考をサポートしてあげられるかが、子どもが行動を起こすのに重要な要素になります。
周りにいるご家族の方々から、このようなサポートができると、子どもが行動を起こしやすくなっていきます。
参考事例 ~ある中学2年生の女の子Cさんのケース~
Cさんは中学生になって、1ヶ月くらいしてから、学校に行けなくなってきたところでした。そんな状態の中不登校支援センターへカウンセリングに来訪するようになり、月日は流れ中学2年生に進級しました。(学校には行けていない状態が続いています)
カウンセリングを続けているとCさんは、「学校に行くことは今は考えられないが、勉強だけでもできるようになりたい」と言うようになりました。
カウンセリングにおいて、私はCさんの「勉強できるようになりたい」という思いをしっかりと傾聴していました。
すると、少しずつ実行しようとする動きがあり、カウンセリングの中でも
- 「勉強しなきゃ、と思うけど手につかない」
- 「勉強しようとすると頭が真っ白になる」
- 「勉強できないでいると自己嫌悪になる」
などのネガティブな言葉が出てくるようになってきました。
このような言葉に対して、
「一人でやりにくいのであれば、一緒に勉強してみる?」「環境を変えてみたらどうかな?」「他のことをやってみたらどうかな?」
などの声かけをしてしまうと、それが「焦り」に繋がる可能性があります。
自分のやろうと考えていることができない、という失敗体験にもなってしまいますし、もしかしたら、他の方法に対しては自分では無理だと感じてしまっているのかもしれません。それがわからない状態で、他の方法の提案などは、あまり良い結果に繋がらない可能性が高いです。
そのため、このときの対応としては「焦らせない」を意識した会話をすることがポイントでした。
「勉強しなきゃ、と思うけど手につかない」 ⇒ 「勉強しようとは考えているんだね」
「勉強しようとすると頭が真っ白になる」 ⇒ 「実際に勉強しようとはしたんだね」
「勉強できないでいると自己嫌悪になる」 ⇒ 「勉強しなくてもいい、とは思えないんだね」
などと、『0が1になる努力をしているというポイント』を拾っていくようにしています。
少しずつでも前に進んでいると子どもが思える(感じる)ようにすることで、「焦り」を募らせないようにします。
学校に行けなくなる子どもたちのほとんどが、目に見えない努力をたくさんしています。それを如何に気づいて受け止めて、理解してあげられるかが重要です。
- 「なぜ自分に勉強することが必要だと考えるようになったのか」
- 「勉強することになって、自分がどうなれると思えるのか」
をカウンセリングのなかでじっくりと深めていきました。
この過程で、言葉や意志がぶれる子どももいますが、ブレずに深められたとき「しなければ」が「やってみたい」に変換できるポイントが見えてきます。
Cさんは、少しずつ勉強する自分と向き合う時間が増えていき、あきらめずに勉強する自分を目指していました。
結果、中2の夏休みから勉強にとりかかれるようになっていき、その後も勉強することが続けられ、見事高校受験にも合格できました。
最後に
今回紹介した『社会接近傾向状態』は、不登校支援において復学までの時間が長くなるか短くなるかの重要なポイントでもあると思います。
この状態になったときに、子どもの背中を押すような対応をした結果、子どもが何もしなくなってしまった・・・とう事例は本当に多いです。また、この状態になっていることに気づかず、子どもが自分の中で「やっぱり自分には無理だ」と諦めてしまうこともあります。
子どもが今どのような状態なのかに少しでも気づいて、適切に対応していくことができれば、子ども自身も親御様もより早く安心していけると思います。
参考事例も、あくまでもそのご家庭、Cさんだからこその対応ではあります。
具体的な対応であればあるほど、他のご家庭では上手くいないと感じる場合が多いですので、気になる方は是非、専門家にご相談ください。
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