Carol Dweck(キャロル・ドウェック)博士の研究結果から考える【成長する人と成長しにくい人の考え方の違い】とは?
こんにちは。不登校支援センター仙台支部の上原です。
今年も終わりが近づきましたね。皆さんにとってどんな一年となったでしょうか?
進歩が感じられた人、停滞していたと感じる人、様々でしょう。
今日は、スタンフォード大学の教授である心理学者の Carol Dweck(キャロル・ドウェック)博士が行った、とある研究の一部をご紹介したいと思います。
才能?努力?変えられるもの
頭の良さやセンスの良し悪し、これらのものは先天的な特性で決まるのでしょうか?
頭の良い人は生まれつき頭がよく、悪い人は死ぬまでずっと悪いままなのか・・・。
皆さんはどう思われるでしょうか?
Carol Dweck博士は
『才能などはどうにもならない』という思い込みが、人の限界を決めてしまう要因であり、適切な思考態度を持つことでそれらは伸ばしていくことが出来る
と明らかにしました。
博士は【固定された思考態度】と、【成長する思考態度】の2つに分けてこれをとらえています。
【固定された思考態度】
- 根本に自分をよく見せたいという欲求がある
- 失敗しそうな挑戦を避けたがる
- 壁にぶつかった時、あきらめが早い
- 努力しても実を結ばないと考えがち
- アドバイスを受けても耳に痛い話は無視してしまう
- 他人の成功を恐れる
これらの特性から【固定された思考態度】は、自分の能力を出し切れず、成長が頭打ちになりやすいそうです。
【成長する思考態度】
- 根本に学びたいという欲求がある
- 挑戦を喜んで受け止め進んで行う
- 壁に当たった時、いずれは越えられるものと粘り強く堪える
- 今出来ていないことは通過点であり、努力で出来るようになると捉えている
- 耳に痛い意見でも自分の為になるものと受け入れる
- 他人の成功からどのように成功したのを学び、自分の糧にする
【成長する思考態度】は、根本に学びたいという欲求があるため、すべてのことを成長する糧と捉えて行動できるため、成長ができるそうです。
つまり・・・
【固定された思考態度】は今やっていることの過程に意味を見出せないので努力が出来ない。
【成長する思考態度】は過程に意味を見出せるので努力をし続けることが出来るのです。
この2つの思考態度を、不登校の子に当てはめて考えてみます。
よく子どもから聞く言葉の中に「学校の勉強をしても使わないし意味がない」というようなものがあります。
これはまさに【固定された思考態度】だと言えるでしょう。自分がやっていることに意味を見出せていない状態ですね。
しかし、これを【成長する思考態度】で考えるとどうなるでしょう。
「学校の勉強って大人になっても使わないように思えるけど、それをあえてやるのはどんな意味があるだろう。もしかしたらこんな場面で使えるかもしれない。あるいは勉強をするということ自体に意味があるのかもしれない」
など、自らやっていることに意味を見出して、学ぼうと思考していくかもしれません。
Dweck博士は、大人と子どもの両方を対象とした20年に及ぶ研究で「人格や知性は本人の生まれ持ったものではなく、成長させることができる」と信じることが、大人にも子どもにも著しい変化をもたらす、という発見をしました。
思考によって行動も変わってしまう
Dweck博士によると、学校の中や社会の中、人と人の関係の中でも結果を重視する人が多くいるそうです。
こういった人は自分の素質には限界があると捉え、同時に知性や人格がどんな状況でも評価対象にあると考えている傾向が強いそうです。
そのため、
- 自分は失敗しているか、成功しているか?
- 賢く見えるか、バカに見えるか?
- 受け入れられているか、排除されているか?
- 勝者か、負け犬か?
ということに重きを置いてしまいます。
しかし【成長する思考態度】の人は、自分の素質は努力によって伸ばすことが可能だと考えています。
人によって持っている素質は別々ですが、誰しもが経験や勉強を通して素質を育てたり変えたりすることが可能であると考えるのです。
もちろん努力したからといって、誰もが天才になれるということではありません。
ですが自分の潜在能力を「まだ分からない」ものと考えることで、情熱を持ちトレーニングを何年も行うことができるのです。
Dweck博士が行った研究の1つに、4歳の子どもを対象にした実験があります。
1つのグループには【固定された思考態度】を教え、もう片方のグループには【成長する思考態度】を教えます。
そしてそれぞれのグループに2種類のジグソーパズルを選択させます。
【固定された思考態度】のグループは、自分の能力を示せるように簡単なパズルを選び、研究者らに対し「間違えない」という自分の能力を示しました。
その様子をみた【成長する思考態度】のグループは【固定された思考態度】のグループのことを「新しいことが学べないのに、どうして何度も同じパズルを選ぶのか」と困惑していたそうです。
【固定された思考態度】のグループは自分を賢く見せるための確実な成功を求めました。
【成長する思考態度】のグループは自分の能力を伸ばせる方を選んだのです。これは彼らの「成功」の定義が、賢く見せることではなく、賢くなることを意味するためだと考えられます。
つまり、周りの大人たちの評価の仕方や接し方に、この2つの思考態度は大きな影響を受けるのです。
別の実験でDweck博士は10代の少年少女を中心としたテストを実施しました。
子どもたちにIQテストを受けてもらい、それぞれに違った声掛けをしました。
- 片方へは「わあ、△点も取ったの、いい点ね。あなたは頭がいいわ」と褒めました
- もう一方へは「わあ、△点も取ったの、いい点ね。よく頑張ったわ」と褒めました
一方は『能力』を褒め、もう一方は『努力』を褒めた、ということです。
すると、能力を褒められた子どもは、次に2つの問題を選択する際、難しい方の問題を避けるようになりました。
反対に努力を褒められた子どもたちの90%は、学びの得られる難しい方の問題を選んだのです。
そして興味深いことに、Dweck博士らが子どもたちには解けないような難しい問題を与えた時、【固定された思考態度】のグループの子どもは、自分のことを頭が悪く、才能がないと考える傾向にありました。
このことから、2つの思考態度考は、挑戦に対する「楽しみ方」にも大きな影響を与えることがわかります。
どちらのグループも最初の問題は簡単に正解できるため楽しめます。
しかし問題が難しくなっていくと、能力を褒められた【固定された思考態度】の子どもは楽しむことができません。一方、【成長する思考態度】の、努力を褒められた子どもたちは自分の能力を伸ばしていけるので難しい問題でも楽しめます。
前者が問題に正解できないことでどんどんやる気をなくして行くのに対し、後者はどんどん成長していきます。
そして【固定された思考態度】の持つ最も大きな弊害は、子どもたちが嘘をつくということにありました。
彼らは「テストの点数を仲間に伝えるために手紙に書いて」と言われると、賢く見られるために嘘の点数を書いたのです。
この結果は2つの考え方の成功に対する考えも左右します。
- 【成長する思考態度】のグループは「一生懸命やっている時の成功は自分を高める」と考えます。
- 【固定された思考態度】のグループは「成功は自分の卓越さを証明するものであり、偉大な人になることは無名であるよりも価値のあることだ」と考えます。
これらのことから、【固定された思考態度】が成長にあたり多くの弊害を生むということが分かるかと思います。
では子どもたちに【成長する思考態度】を持ってもらうためにはどうすればいいのか?
最後に軽くそこに触れて終わりたいと思います。
【成長する思考態度】を育てるには?
Dweck博士は上記のような2つの考え方を、仕事や教育ではなく、愛にこそ適応させなければならないと述べています。
愛と言われてしまうと少し抽象的なのでもう少し掘り下げて考えてみます。
人間関係において自分の理想のパートナーを想像してみます。
- 【固定された思考態度】の人は「自分に間違いはないと信じ、満たしてくれる相手」を好みます。
- 【成長する思考態度】の人は「自分の間違いを認め、成長を手助けしてくれる相手」を好みます。
人との関係で何かトラブルが生じた時、【固定された思考態度】の人は「完全さ」を重視して、相手の非を責め立てます。
そして相手をさげすみ、関係そのものに不満を感じるようです。
- 「なんでこんな間違いをしたの!」
- 「こんな簡単なことを忘れるなんて!」
- 「こうしていれば上手くいったのになんでしなかったの!」
その反対に、【成長する思考態度】の人は相手を責めず、欠点を認め、欠点があっても自分たちは十分な関係にあると考えます。
トラブルの原因はコミュニケーションの問題で、相手の間違いや失敗を指摘するようなことではないと捉えます。
- 「私の伝え方が悪かったのかな?」
- 「そういう風に捉えていたからそうしていたのね」
- 「どんな受け止め方をしたら繰り返さないかな?」
では、私たちは子どもたちに対して、どんな態度をとっているでしょうか?
例えば、テストの点数が悪かった時、宿題を忘れた時、兄弟喧嘩をした時、いたずらをした時etc・・・
周りにいる大人が子ども達の非を責め立て、「どうしてこんなことをしたんだ」「なぜおまえはそうなんだ」と相手をさげすんでいたとしたら・・・
当然子ども達はその影響を強く受け、【固定された思考態度】へ進んでいく可能性が高いです。
問題があった際に子どもの非を責めるのではなく、
- 「今回上手くいかなかったのはなんでだろうね。次に失敗しない為にはどうしたらいいだろう」
- 「そうしてしまったのは伝え方も良くなかったかもしれないね。今回のことはどんな風に受け止めていたのか教えてくれるかな?」
などコミュケーションの問題として接していくことで、思考態度に影響を与えることが出来ます。
これはほんの一例で僅かな方法ですが、日々の積み重ねで思考態度は変化していきます。
子どもたちにとって一番影響が大きいのは親御さんですから、その接し方を工夫することで将来にプラスを作ることが出来るかもしれません。
もし興味があればカウンセリングの際にご質問ください。子どもには具体的にどう接したらいいのか、知りうる限りお伝えさせて頂きたいと思います。
それではまた。
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