子どもの発達段階と不登校との関係②~小学校高学年~
こんにちは。不登校支援センター横浜支部カウンセラーの本沢裕太です。
前回のブログでは、小学校低学年(3年生まで)の発達段階について考えてみました。
今回は、前回と比較もしながら、小学校高学年(4年生以降)の発達段階について考えてみたいと思います。
(前回ブログ⇒子どもの発達段階と不登校との関係①~小学校低学年~)
小学校高学年では・・・
低学年で身につけた知識や技能について、抽象化して認識する事が可能となります。
そのため、子どもが自分自身の事を客観的に捉えられる様に関わっていくのが望ましいと言われています。
また集団では、その集団の規則や意味や目的などを理解出来る様になります。
- 目標達成に主体的に関わったり・・・
- 共同作業を行ったり・・・
- 自分たちで決まりを作ろうとしたり・・・
といった動きも出てきます。
その中で、より関係の濃い仲間を作ろうと排他的になる傾向(部外者や邪魔者を退けようとする、仲間外れにする様子)も見られる様になるなど、仲間意識が強まり、家族や先生とのよりも仲間との関わりを重視する事が増え、自立心も強くなってきます。
低学年までは、親や先生の言う事が正しいと考え従っていた子どもたちも、高学年になると・・・
- 自分(たち)の損得が基準の言動をとる
- ご褒美や見返りを得る為の行動が見られるようになる
- それらが、逸脱行動や反社会的な行動に表れる
といった様子も見られてくるようになるのですね。
同学年の集団との関わりが増える事で、 その集団内で自分がどういった位置づけか も重要になってきます。
中には、実際の周りからの評価よりも、自分を低く評価してしまう子どももいらっしゃいますし、その自己評価の低さを隠す為に必要以上に自分を過大評価する子どももいらっしゃいます。
こういった子どもは、周囲からの批判や不承認に対して想像以上に傷つく事があり、それが不登校へのきっかけになる事も有り得るのです。
そのため、
- 本人の努力に伴わない成功などについて、必要以上に褒めない
- 周囲が子どもに対して高すぎる期待をしない
- 集団での役割を自覚させる
- 主体的な責任意識の育成
- ありのままの子どもの状態を承認し、本人に伝える
などの関わり方を通して、
◆自信をつけて、自己評価を高める
◆自分と他人を同じ様に尊重する気持ちを持つ
◆相手を思いやる気持ちを持つ
などを養っていきたいですね。
今回は、その中でも「抽象化して認識する」という能力をピックアップしてみたいと思います。
というのは、実際に子どもとお話しさせて頂く中で、これが苦手な子が多くいらっしゃる印象を受けるからです。
抽象化とは・・・
- 他との共通点に着目し、一般化してまとめること。
- 本質を理解し、重要な部分だけを抜き出す。
抽象化について調べると、このように書いてあったりします。
抽象化が出来ると・・・
- 自分の伝えたい事を言語化しやすくなる
- 相手が本当に伝えたい事を想像しやすくなる
- 物事の応用がきく、機転がきくようになる
などが言えると思います。
抽象化が苦手だと・・・
- 算数で、計算問題は解けるが文章問題は解けない
- 国語で、筆者や登場人物の心情を問われても分からない
- 応用がきかない、機転がきかない
といった状況になっているかも知れません。
もちろん日常的なコミュニケーションにも支障が出ている可能性があります。
例えば、1+2=3 2+1=3 3-1=2 3-2=1
「1+2=3、ってことは、3-1=2、ってことか!」
と理解できる力が「抽象化」に当たります。
たとえそれが理解できなくても「1+2=3 2+1=3 3-1=2 3-2=1・・・」と丸暗記すれば、問題は解く事はできますが、数字が変わってしまったら分からなくなってしまうかも知れませんね。
ここで、1つ事例を紹介いたします。
小学校6年生の女の子Aさんは、学校を休み始めてから家にこもりがちになりました。
家では絵を描いたりゲームをしたりと楽しそうに過ごしている様にも見えます。ですが、外出となると途端に嫌がります。
なので、親御さんも無理に外出はさせようとはしませんでしたが、本人に自信をつけてあげたいと、カウンセリングの中でお話しされておりました。
そんな状態なのでAさん本人はカウンセリングには来ていませんでしたが、親御さんとご家庭内で出来る事を一緒に考えていたところ、家事のお手伝いはそこまで抵抗感はなさそうとの事で早速お願いしてみる事になりました。
「洗濯物を取り込んで欲しい」
親御さんがまずお願いしたのは、これでした。
今までもやってくれたことがあったし、そんなに難しくないのではないかという想定の中で行ったのですが、やってみると意外と問題が浮上してきます。
ある日、Aさんにお手伝いをお願いした後、お仕事に行かれた親御さんが帰宅すると、洗濯物が干しっぱなしでした。今日はやらないのかなと思い、親御さんが取り込もうとすると、「私がやる!」と言ってAさんが洗濯物を取り込んでくれます。
「やりたくないんじゃないのかな」と違和感を感じつつも、翌日もその翌日も同じように「洗濯物を取り込んでほしい」とお願いすると、翌日は途中から雨が降ってきていましたが、そのまま夜まで干しっぱなしだったそうです。
その直後の面談で親御さんは、こうおっしゃってました。
「洗濯物を取り込むと言ったら、普通14時頃には取り込んでこれると思ってました。遅くても陽が落ちたら取り込もうとするんじゃないかと・・・。 せめて雨が降ってきたら取り込んで欲しかったですが、それがあの子には無いんです。全く悪びれる様子もなく、夜取り込んでくれます。」
なので、それまでお手伝いしてくれていた状況を一緒に振り返りました。
すると、大抵親御さんと一緒にいる際に、親御さんが声を掛けると手伝ってくれるというシーンがほとんどだったのです。
Aさんは、今まで言われたタイミングで言われた事をこなしていたのでした。
お手伝いをお願いしてみたことで、初めてAさんの中の認識と、親御さんの認識が違う事に気付きました。
Aさんは、お手伝いをしたくなかった訳ではなく、親御さんが想像していた
- 14時から15時の間には洗濯物を取り込んでほしい(なぜなら、夕方以降になると、冷気や湿気で冷たくなってしまう)
- 急な天気の変化の際にも洗濯物を取り込んで欲しい(なぜなら、雨で濡れてしまう)
という事を理解していなかっただけだったのです。
ですので、親御さんはAさんに対し、丁寧に分かる様に説明したとのことでした。
ここで怒りたくなる場合もあるかと思います。
「そんなの考えれば分かるでしょ!」
「何の為に洗濯物を外に干してる思ってるの!」
って。
でも怒ってしまうと、子どもからしたら
「せっかくお手伝いしたのに怒られた・・・」と受け止めてしまい、次はやってくれなくなってしまいます。
「抽象化」の能力がまだ開花しておらず、ただ考えつかないだけなのです。
親御さんから丁寧に説明されたAさんはその後、時間を意識して洗濯物を取り込む様になりました。
さらに驚くことが起きたのです。
自分が取り込んだ洗濯物のその後が気になったのか、畳んでしまっている親御さんの様子を見て、Aさんがこう言ってきたそうです。
「洗濯物を取り込んだ後に畳むのだったら、それ明日からやっておくよ。しまうのは各自でやってね。」
親御さんも驚いて「何て言ったら良いか分からなかった!」と喜んでおられました。
Aさんの中で、
洋服を着る → 洗濯する → 乾かす為に干す → 乾いたら取り込む → 取り込んだら畳む → 所定の場所にしまう → ・・・
という一連の流れが理解できたのです。
そのちょっと後くらいから、Aさんがカウンセリングに来てくれる様になります。
「学校には行かなくてはいけないのはわかるが、どうしても行きたくない気持ちがある」
「自分だけではどうしたら良いのか分からないから・・・」
という事でした。
本人から直接お話しを聞いてみると、
- クラスの中での自分 (役割や優劣)
- クラスでの、苦手な子、苦手な雰囲気
- 自分が思っている自分と人から言われる自分との違い
- 得意なこと、苦手なこと
などを考えると、どうしたら良いのか分からなくなるとの事でした。
全てではないですが、抽象化して捉える事ができなかったからこそのストレスを感じている様です。
今、Aさんとはカウンセリングを続けていく中で、
- 「Aさんってどんな人か?」という自己理解を深める
- Aさんが本当はどうなりたいのか
- その為にどういった事ができそうか
- 学校では何の為に○○をするのか
- 他の人は何で○○するのか
などを一緒に考えています。
今回のまとめ
今回は、小学校高学年で身に付き始める「抽象化」というものを事例を交えて取り上げてみましたが、中学生や高校生でも「抽象化」が出来てない子はいます。
本来、年齢が上がれば「抽象化」は自然と身に付いてくるものではあると言われていますが、今までに物事の本質を考えることがなかったのであれば、こちらから答えを提示するのではなく子どもと一緒に考えてみるのも良いかも知れませんね。
そういった機会さえあれば、Aさんの様に誰でも「抽象化」ができる様になります!
もし、子どもが家事のお手伝いをしてくれる際には、
- 任された仕事をどの様にこなしているか
- 言われた事だけをやるのか
- 自分で考え本質を捉えて行動しているのか
などにも注目してみてください。
次回は、中学生の発達段階についてお伝えしたいと思います。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
関連ワード: 不登校支援センター横浜支部 , 主体的な責任意識 , 共同作業 , 反社会的行動 , 排他的 , 自己評価の低さ , 逸脱行動 , 高学年