不登校専門カウンセラーが語る「仙台母子心中事件」に対する思い
こんにちは。不登校支援センター仙台支部の上原です。
本日は非常にショッキングなニュースがあった為、急遽ブログを書かせて頂きました。
皆さんもニュース等で拝見されたかと思いますが、仙台で起こったいじめを原因とする母子心中事件に関してです。この報道があってから、私の以前書いた記事に通常の10倍以上の閲覧があったことからも、この問題に対して高い関心を持っている方が多いことが分かります。
不登校という問題を扱っている立場としても考えさせられる出来事でしたので、今回の事件についてカウンセラーの視点で思うところを書いてみたいと思います。
なお、今回の事件の概要にも触れております。こういったものを読むことで気分を害する可能性のある方は、事前にページを閉じてくださいますようお願いします。
「仙台母子心中事件」の概要
日々の報道により、事件について大体のことは皆さんもご存知のことと思いますので簡略化して記載させて頂きます。
昨年11月に小学校2年生の女の子とその母親である40代の女性が自宅で死亡しているのが見つかりました。警察は現場の状況などから無理心中の可能性があるとみています。
女の子の父親は「娘がいじめを受けるようになり、学校などに相談しても対応が不十分で母親は心身の不調を訴えるようになった」として、無理心中はいじめが原因だとしています。
このため父親は今月21日、市教育委員会を訪れ、第三者委員会を設置し、学校側の対応などを調査するよう求めました。
父親は「妻は学校や教育委員会に何度も相談したが対応してもらえず、絶望していた。市はいじめ対策の基本方針で被害者に寄り添うとしており、それにのっとって対応してほしかった」と述べました。女の子は去年8月「しにたいよ。わるいことしかないよ。いじめられてなにもいいことないよ」というメモを両親に宛てて書いていて、両親は学校に相談していたということです。
仙台市教育委員会に要望したあと記者会見を行い「去年5月以降、学校に相談し、いじめた本人への指導とその保護者への報告を求めていた。家族みんなが眠れない精神状態が続いていた。しかし、学校も教育委員会もきちんと対応してくれなかった」と述べました。また、女の子と母親が死亡した直後の学校側とのやり取りについて「校長から連絡が3回あったが、面会は断った。それ以降の連絡はない」と述べました。
このニュースに関しては様々な意見があると思います。私が見た限りでも、
- 学校の対応が悪い
- 家族をフォローできていなかった父親が悪い
- 子どもに死を迫った母親が悪い
- 学校は保身ばかりだから期待するな
- いじめを行った相手が一番悪い
- 記事では父親の主張のみなので事実はわからない
- 親が出来たことはなんだったんだろう
- いじめられた側の問題はなにかなかったのか
- 学校側はどこまで介入するのが良かったんだろう
- またこんなニュースかよ。なぜ繰り返されるのに対策できないんだ
- いじめに対する授業を月1回でもいいから義務教育の中に入れるべきだ
- 学校の先生のキャパオーバーも原因の1つ。国が教員の労働環境をよくするべき
- 日本が先進国の中で自殺率が高いのは学校教育に責任がある
- 自分もいじめが原因で不登校だったが相談しても何もしてもらえなかった
- こんな目に合うくらいなら学校なんて行かなくていい
本当に様々な意見があり、どれも考えさせられるものばかりでした。
もちろん詳細な状況や実際の事情などが分からない状態ではなんとも言えないのは確かです。ですが様々な意見に共通して感じられたのは「なんとか出来なかったのか」という思いです。
私もカウンセリングの中でうまくいかないことはあります。全てが全て順調に上手く進むということはなく、反省し、後悔し、歯がゆい思いをすることもあります。
けれど「死」という最悪の結末を迎えることだけは避けたいと考えています。それだけは本当に、取り返しのつかない状態になってしまうからです。
ではこの件から私たちは何を感じ、気を付けるべきでしょうか。
実は一番大切なのは、親御さんの精神状態
不登校支援センターでは子どもに対するカウンセリングだけでなく、親御さんからお話を伺う時間を頂いています。それもかなりしっかりと時間を割いております。
「初回面談時は子どもを連れて来ず、親御さんだけでお越しください」としています。中には「親ではなく子ども本人と話してほしい」とご要望を頂くこともありますが、基本的には「まず親御さんとのカウンセリングから」という形で進めさせて頂いております。
それは何故でしょうか?
私はカウンセリングをする際に親御さんにこう伝えることがあります。
「ご自身のケアも考えてみてくださいね」ということです。これをわざわざお伝えするのは何故かと言えば、もちろんそれが大切なことだからです。
これまで何千回とカウンセリングをしてきましたが、子どもよりも先に親御さんの心が折れてしまうケース、というのを数多く見てきました。以前別の記事でも書きましたが、周囲でサポートしようとする親御さんのほうが、実は子どもよりも負担が大きい場合が多いのです。
不登校の子どもを持ったことのある親御さんであれば理解出来ることだと思いますが、時には死を考えてしまうほど、親御さんは追い込まれる可能性があるのだということを知って頂きたいと思うのです。
親御さんを追い込む要因は無数にあります。
- 父親(母親)の非協力的な態度
- 周囲からの「なんとかしないといけないんじゃないの?」というプレッシャー
- 「〇〇してみたら?」「××は試してみた?」などのアドバイス
- 祖父母からの「学校に行かせなくていいのか?」という圧力
- 親としてのちゃんとしていないせいではないか、という自己否定
- 「お前がちゃんとしていないからだ」という周囲からの言葉
- 不登校は悪いものだ、という世間の常識
- 氾濫する解決方法(解決しなければいけないという強迫観念)
- 相談する相手の少なさ
- 相談することによって生じるストレス(解決法ややることを提示されるとそれがストレスになる場合も)
- 私はこんなになんとかしようと頑張っているのに!という子どもへの憤り
- なんで私の子だけこんな風になってしまうの、という子どもへの思い
本当に書ききれないくらい様々な要因が親御さんを追い詰めていきます。周囲は善意で行っているようなことでも、それが追い込む要因となってしまう場合も多くあります。
今回の件がどうであったかは分かりません。しかし、お母さんが子どもと共に命を断つほどの精神状態にあり、それをケアすることが出来ていなかった。
これはほぼ間違いのないことなのかもしれません。
私たちが考えるべきなのは、まずここからなのではないでしょうか。
環境や状況に対する応急処置
私は支援を進めていく際に2つのことを大切にしています。
1.本質的な問題の解決
2.現状で実行可能な応急処置
これは人によっては懐疑の目で見られることかもしれません。
例えば
- 親御さんと世間話を1時間もした。
- 子どもとゲームをしながら遊んでいた。
これをカウンセリングの中でやっていますと言えば「え?そんなことに意味があるの?」と感じる人も多いかもしれません。もちろん、不登校の本質的な部分に目を向け、対策を考える時間は大切です。それを否定するつもりはまったくありません。
ですが「今、本質的な問題解決にエネルギーを割ける状態であるか?」というのは、とても注意して考えなければいけないことだと思います。
今の時期は受験シーズン真っただ中ですので、勉強を例に考えてましょう。
合格するためには勉強が必要 ⇒ だから時間の許す限り勉強をしよう。
こんなことは誰に言われなくても皆分かっていることだと思います。ですが、いざそれをやろうとするとどうでしょうか。分かってはいるけど中々手がつかない、となることってありませんか?
不登校でも同じです。
やるべき対応や、こうすれば一番いいんだろうな、ということは調べればたくさん出てきます。理想的な対応、考え方、態度、声のかけ方、いくらでもあるでしょう。
でも大事なのは「それ、出来ますか?」ということです。もし、ここで「それをちゃんとやらなきゃ!」と考えてしまう場合は注意が必要です。なぜでしょうか?
答えは・・・「そんなことは出来ないから」です。
私はカウンセラーという立場で一日に何件か ”仕事” として不登校に向き合っています。それですら正直に言って辛いことがあります。大変な思いをすることも多々あります。時間の限られた、 ”仕事” という部分があるからこそ、続けることが出来ています。
ですが親御さんは違いますよね。毎日24時間、親でない時間はありません。仕事をしていても、友達と会っていても、頭の片隅には、「親である自分」があるはずです。
しかし、その全ての時間で「ちゃんと親をやり続ける」のは難しいのではないでしょうか。
あえて断言するならば、不可能とも言えるでしょう。もし私がやれと言われたら気が狂ってしまうかもしれないと感じるほど、難しいことかもしれません。
意識的にも無意識的にも、手を緩める時間は必要です。
そしてそれは「手を緩めていることに罪悪感を抱いてしまうと効果が薄い」とも考えます。
「本当はこんなことしている場合ではないのに・・・」そんな風に思いながら休んでいても、心は休まらないでしょう。休む時はしっかりと休む。それをするためには自分に対する言い訳が必要になってくるのです。
問題の本質的な部分に取り組むためのエネルギーを作りたい。⇒ その為には、休む必要がある。⇒ だから休む。
ただ休むだけは心苦しいというのなら、何かをしましょう。それは今直面している問題とまったく関係のないことでも良いのです。
現状に対する応急処置は「本質的な問題解決を継続する」ために必要な行為とも言えるでしょう。
具体的にどんな応急処置が適しているかは1人1人違うはずです。それが分からなければ「分からなーい!明日考えよ!」と投げたっていいのです。今日できないことは明日もできない、とは限りません。人は変化する生き物なので、その変化の為の材料を与えてあげればいいんです。必ずしも変化の材料が、真正面からぶつかることだけはない、ということですね。
だから出来ることをやる。
やれなくてもいい。
この応急処置を意識できるとまた違ってくると思います。
学校には何を求めるべきなのか
さて、次に考えてみたいのが学校の対応についてです。
この件では、お父さんが学校の対応への疑問を提起しています。皆さんはどう感じられたでしょうか?
私が不登校カウンセラーとしてこの仕事に携わる中で、学校の先生が自分の子どもが不登校になってしまったとご相談に来られたことや、私の友人が教職に就いているなど、学校の状況について知る機会が多々あります。そこから感じられたのは「本当に学校によって違うな」ということです。もっと細かく言えば1人1人の先生によっても対応が大きく違うと感じます。
何が良い、とは一概には言い切れませんが、少なくとも学校の対応に親御さんが不満を持つケースと学校の対応に満足しているケース、双方あるのは事実です。
【学校の対応に満足してるケース】
「ちゃんと話を聞いて、どう対応していくのか一緒に考えてくれている」所が多いように思います。またきちんとした方針を示して、それに沿って行動を続けている場合も不満には繋がり難いようです。
【学校の対応に不満を感じているケース】
「全然話を聞いてくれない。話したけど何もしてくれない」などは分かりやすく不満となっています。たとえアクションしていたとしても「学校側の考える行動」だけで一方通行なものは、強い不信感を持たれることが多いようです。
実際によくあるケースとして、「子どもが先生に会いたくないと言っているのに「そういう決まりなので」といって先生が毎週家庭訪問に来る」という対応ですね。
このような対応で、状況が改善した例を私はあまり知りません。親御さんも家庭訪問への感謝よりも「義務を果たしているだけじゃないか」という感情が芽生えやすいようです。
反対に、学校側の事情も考えてみたいと思います。
学校の先生というのは多忙です。よくニュースにもなるのでご存知の方も多いと思いますが、高い離職率やうつ病になる、自殺する教職員、などの話からも窺い知れます。
実際に教職員の方から話を聞いても、
- 部活動の顧問などやっていると土日含めてほぼ休みがない。
- 業務が時間通り終わることはほぼない。
- 毎日長時間の残業をしている。
- 家に持ち帰っても仕事しているが、それでも終わらない。
- やることが多岐に渡りすぎて手が回らない。
- ただでさえその状態なのにイレギュラーな事態が発生したらそれも対応する必要がある。
- 仕事をちゃんとやる先生と、そうでない先生の差が激しい。
色々と苦しい現実があるようです。
結局ちゃんと仕事する先生に負担がかかり、その先生は続けられなく退職。良い先生ほどいなくなる・・・という悪循環も起こっているようでした。
抜本的な解決を個人が望むのは、かなり難しい状況だと言わざるを得ません。
そんな現状でどのような対応が望ましいのでしょうか。
私がこの仕事をしているから言うわけではないのですが、外部機関を上手く使うのが大切だと考えます。
先生たちに能力や熱意が足りていないということではないのです。特に現場で担任をしている方は懸命に働いている方が大多数です。ですが、単純に手が足りていない状況があります。
求められること全てに完璧に答えられるような先生は、ほぼ皆無ではないでしょうか?これは、先生としての業務が、物理的な処理できる量を越えてしまっているからです。その状態の先生に対応を求めても、問題の解決は難しいです。
また、今回の件に対する世間の意見の中でも挙げられていたように、もし仮に学校側の保守的な思考や、事なかれ主義のような部分があったとしたら、なおのこと一個人の意見で学校が動くことは難しいのかもしれません。動いてもらうためには、第三者の立場である外部からの力が必要になって来るでしょう。
センターに限らず色々な相談機関や病院などがあります。それらを上手く使っていくことが大切だと考えます。
学校側としても、不登校問題に直面した際には外部の力を求めている場合が多いと思います。しかし色々な要因からすぐにそれらに頼ることが出来ない状態もあるかもしれません。
そういった学校側の事情も理解しつつ「どのようなアクションがその学校には一番届きそうなのか」を考えられると良いかもしれませんね。
最後に
今回の事件のようなことは他人事ではありません。このご時世いつ自分の身に起こってもおかしくないことだと思います。
ですが起こってしまったことに対して、何もできないわけではありません。そして自分たちだけで解決しなければいけないことでもありません。
どうか最悪の決断をする前に、別の方法を検討してみて頂きたいです。
長々と書いてしまいましたが、私がお伝えしたかったのはこの1点に尽きます。
命があれば、できることはきっとあります。
重く、重く悩んでしまったときに、ご家族を支える存在がもっと身近にいれるよう、私たちも日々力を尽くしてまいります。
決して早まった判断ですべてを投げ出すようなことは止めて頂ければ幸いです。
それではまた。
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